

2025年4月4日、ダイネーゼ大阪がアジア最大級のフラッグシップショップとしてオープンするにあたり、オープニングイベントに、MotoGPレジェンド・ライダーであり、今年からダイネーゼ・グローバルアンバサダーに就任したダニ・ペドロサ選手が来日。
ダイネーゼ・ジャパンのアンバサダーであるレジェンドライダーの原田哲也さんと上田昇さんに、バイクレース界について、ライディングギアやマシンの進化などについて対談していただきました。
テストライダーとしてのワイルドカード参戦で表彰台を獲得!?
原田:僕、MotoGPの大ファンだよ(笑)ダニがヘレスにワイルドカードで出場したときも「いけーーーーー!」ってすごい応援してたもん。
ノビー:去年のヘレスでは、スプリントレースで表彰台にも登ったよね、すごいよね。

MotoGP第4戦スペインGP スプリントレースで3位を獲得したダニ・ペドロサ。(Photo by KTM)
ダニ:引退して何年も経ってからの参戦で、限界までプッシュするのは本当に難しかったんだ。現役のときはいつもレースに集中していたけど、引退してからはリラックスしてしまっているからメンタルの作り方が難しかったよ。
原田:そうだよね、レースに向けて集中力を高めるのは難しいよね。だから、ダニはすごいよ、尊敬する。
ノビー:僕はもうできないよ。レーシングモードにはなれない。すごい!
ダニ:ありがとう。

原田:それにしてもダニはよく体力が続くよね。現役引退してもなお表彰台に登ったり速いタイムを出したりしてすごいよ。体力つくりとか何しているの?
ノビー:そうだよね、MotoGPライダーに見えない体格なのに。
ダニ:そう、125ccクラスのライダーみたいでしょ(笑)
原田:Moto3だね(笑)
ノビー:いやいや、今のMoto3ライダーはみんなマッチョだよ(笑)
ダニ:昔はすごくハードにトレーニングしていたから、今もちょっと筋肉質なんだ。
ノビー:自転車が好きなんだよね。
ダニ:そうだね、体力維持のために自転車にはたくさん乗っているけど、他にもいろいろミックスして、たくさんのコンディショニングトレーニングをしつつ、それにテクニカルなライディングも加えている。僕にとってこれはすごく重要なんだ。
たとえば、アッセンとかシルバーストーン、フィリップアイランドみたいな超高速サーキットで、ハイスピードでの切り返しがあるでしょ?レースの半分を過ぎたあたり、アッセンの最後のシケインの前なんか特にね。
原田:あそこって、僕達みたいな小柄なライダーはエアロダイナミクスの影響が出るから大変だよね。
ダニ:そう、ダウンフォースがかかると、クイックな動きがほぼ不可能になっちゃうんだ。
ノビー:だから、バイクの俊敏性がすごく落ちる。
ダニ:最悪だよ。僕にとっての最大の問題点だった。
ノビー:どうやってそれに対応していたの?
ダニ:正直、よく分からない(笑)。いつも小柄というハンディキャップを抱えながら走っていた感じだね。走ることはできるけど、バイクをコントロールしきれていなかった。
ノビー:だからマッチョにならなきゃだめなんだね。
ダニ:そう、カピロッシスタイル!わかるでしょ(笑)。
原田&ノビー:カピロッシスタイル!(爆笑)
小柄なライダーはMotoGPクラスでは完璧なセッティングが必要

原田:そういえば、Moto3やMoto2はライダーの体重が軽いとバイクに重りを乗せるけど、MotoGPではそれがないよね。ずっとずるいなーって思っていたんだ。
ダニ:そうそう、そういった意味でもMotoGPは小柄なライダーには不利だと思う。大きなライダーはバイクを押さえ込むのが簡単だからね。
原田:MotoGPの場合、リアに重心をかけることができないとトラクションが得られないからね。僕たちちびっこライダーはそれが難しいんだよね。
ダニ:だから僕たちは、バイクは完璧なセッティングをしないとダメだった。
原田:大ちゃん(加藤大治郎)も同じスタイルだった。
ダニ:カトーもそうだね、あと、今でいうと小椋(小椋藍)も同じ。サーキットによっては、このスタイルが完璧に合うところもあるけど、セッティングには限界があるので苦戦するよね。さらに、グリップに限界があったり、フィジカルコンディションが影響したりするから。
原田:感じる、判るというか理解するのが大事だよね。良い感覚を持っていれば、バイクがどうなっているか分かるし、バイクが良くなければレースでも結果が出ない。
ダニ:小柄なライダーは、それに対応する特別なテクニックが必要なんだよね。

原田:だからかな?若くて身体が小さい時は速いけど、成長して身体が大きくなると遅くなっちゃうライダーがいるのは。体型が変わるとわからなくなっちゃうのかな?
ダニ:それもあるかもしれないけど、昔は2ストロークバイクだったよね。すごく難しかったけど、逆にそれがすごく良かった。でも今は4ストロークになって、あまりテクニックがなくてもある程度速く走れるようになったからだと思うな。2ストロークだとエンジンのタイミングを完璧に合わせなきゃいけないし、ギアも完璧じゃないと速く走れなかった。今のMoto3はシンプルになったよね。前みたいに難しくはないと思うんだ。
ノビー:確かに、2ストロークエンジンのバイクは難しいよね。下はトルクが全くないし、バイクの起こし方とかも勉強になるよね。
ダニ:昔は、若いライダーがスタートするときは、まず125ccの2ストロークに乗って、1年、2年、3年と積み重ねていくうちにバイクの走らせ方を理解していた。今みたいに、すぐ速くなれる時代とは違ったから…。
ノビー:そうだね、そういう原因もあるんだろうね。
原田:500ccはもっと難しかったよ。ダニは500ccは乗ったことがあるの?
ダニ:いや、一度もないんだ。
ノビー:すごく楽しいよ。めちゃくちゃ軽いし、バイクの敏捷性は本当にすごいんだ。しかもかなりアグレッシブ(笑)
ダニ:そうだね、500ccでも大きな違いがあって、500ccのリアタイヤって、タイヤのサイド部分がとても薄いんだ。こんなふうに、すごく細い。一方、MotoGPのタイヤはボリュームがあって、フィーリングもたくさん得られるし、スライドの感覚も得られる。
ノビー:バイクもだけどタイヤも全く変わったもんね、タイヤの進化もライダーの助けになっているよね。
ダニ:さらに長い間ダンロップだったのが、ミシュランになったりブリヂストンになったりもしたよね。
原田:確かに、タイヤメーカーもさまざまだったね。それぞれに特徴があった時代だったなー。
ノビー:そして、カワサキとスズキがMotoGPから撤退して、アプリリアが戻ってきてKTMが参戦開始して、と、メーカーもいろいろと変わってきたよね。

テストライダーになってからのKTMの躍進
ノビー:そういえば、ダニがテストライダーになってから、KTMのバイクがんどん良くなって速くなったんだけど。ダニ、そこにはなにか秘密があるの?
ダニ:KTMのテストライダーになって、まず優先順位をつけて作業することを提案したんだ。というのもKTMの開発陣は、あれもそれもこれも…と、アイディア全部を一度に解決しようとしていて、現場がちょっと混乱した状態になっていたんだ。
バイクはいいのに方向性が全く定まっていなくて。だから僕は「ストップ、ストップ、ストップ、ストップ!」って問題の整理から始めたんだ。
最初はこれ、次にはここ、3番目は…という感じにプライオリティをつけて作業することによって、毎回バイクが良くなっていった。
原田:それは大事なことだよね。
ダニ:でも、僕が優先順位をつけようとすると、チームから反対されて争うことも多かったんだ。例えば「リアのグリップはいいけど曲がらない」なんて症状の時に、僕はまず、曲がるように旋回性を改善することから始めたんだ。
原田:旋回性は重要だもんね。
ダニ:そう。で、作業を進めて旋回性は良くなったんだけど、今度は逆にグリップが落ちてしまった。でも僕は「これでいい」って言ってもチームのみんなは「グリップが落ちたからこれは良くない」って言うんだ。だから「心配しないで、旋回性が良くなったから、次はグリップに取り掛かるよ」ってなだめたり…。
ノビー:ときには、何が問題かを理解するためには、別の方向に進む必要もあるんだよね。
ダニ:僕には「まず後退してから前進する」という考えがあるんだけど、ただ後退しただけに見えてしまうと、理解されなかったり、受け入れてもらえなかったりするんだよね。
原田:ダニが来る前にはこういった提案をするテストライダーはいなかったの?
ダニ:そうだね、このバイクは「良い」、「悪い」の判断だけだったのかもしれない。
ノビー:全体のバランスを見なければならないんだよね、旋回性能は十分か?グリップは?エアロダイナミクスはどうか?といったように。
ダニ:そうだね、でも毎回「more power! more power! more power! 」ってなって、バイクがコントロールできなくなる。バイクは速くなるかもしれないけど、レースの残り2周でリアタイヤが無くなってしまったりする。ありえないよね。大問題だよ。
原田:パワーを出すのは簡単だからね(笑)。
ダニ:ときにはパワーを減らしたほうが良いこともあるんだ。これも後退になるけど、意味がある。で、こんな感じでひとつひとつ優先順位をつけて見極めながら開発を続けたら、バイクは良くなったんだ。でも、僕の後戻りするやり方にチームはまだ不安がっていた。
原田:エンジニアは基本的に、進化しなければ退化と感じてしまうものだからね。

ダニ:だから次のステップとして、チームにバイクの性能は十分だと信じてもらうことが必要になったんだ。だからテストを重ねてラップタイムを向上させ、より速く走るようにした。
そして、2020年シーズン開幕前のセパン(マレーシア)のテストで、僕が速いラップタイムを出したら(トップから0.3秒差で9位。KTM勢の中では現役のポル・エスパルガロに次ぐ2番手)、チームが、「あ、これならいける!」って自信をつけてくれて、あの時、一気に風向きが変わったのを感じた。
そのあとでコロナ禍になっちゃったけど、このシーズンの4戦目チェコGPで、MotoGPクラス初勝利(ブラット・ビンダー)、そして、ポル(ポル・エスパルガロ)の表彰台へとつながっていったんだ。
KTMに来て僕がしたことは、この2つのステップ。ひとつ目は「優先順位をつけること」、そしてふたつ目は「信じさせること」だった。
原田:KTMの躍進はやっぱりダニのおかげだよね。小柄なライダーって完璧なセッティングをしないと速く走れないってさっきも話していたけど、その経験も重要だったってことだよね。小柄なライダーが完璧にセッティングしたバイクは、全員が乗りやすいはず。こういった交通整理をしながら開発できるライダーってそうそういないと思うよ。
ノビー:さらにダニは、ミリ単位の違いが判る繊細さを持っているからね(笑)
原田:今シーズンもMotoGPを楽しみにしているんだけど、KTMはどんな感じ?
ダニ:正直に言うと、今まではチームにとって少し難しい時期だったんだ。というのも今冬にKTMの財政状況が少し複雑になってしまったことが影響していて、将来への不安などから、なかなかスムーズに進めない部分があって。でも今は、その厳しいスタートを乗り越えて、活動を再開している。開発も徐々に軌道に乗せようとしているところなので、ぜひ期待していてください。
ノビー:テストライダーであるダニが表彰台に立つ姿をまた見たいね。
ダニ:今年はチームがこんな状況だから、ワイルドカード参戦ができるか正直わからないけどね。
原田:ライダーにとってもマシン開発するチームにとっても、ダニみたいな存在はものすごく貴重だね。これからの活躍も期待しています。


【Part1】MEET THE SAMURAI
ダイネーゼのライディングギア
レース界においてのスーツやエアバッグ、ブーツの進化について対談。当時と今の違いをお話いただきました。
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株式会社ユーロギア
記事作成 ユーロギア編集部
「モーターサイクル」「スキー」「自転車」等、アクティブスポーツを楽しむ方のためのセーフティギアを取り扱い。海外の複数スポーツブランドの総代理店として、全国に専門店を展開中。他、これらのスポーツを楽しむためのイベント開催も。
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